レビュー

杉本博司 ロスト・ヒューマン|世界の終わりと廃墟のあとに、仏様が待つ展覧会

リニューアルオープンを迎えた東京都写真美術館のこけら落としの企画展は、2フロアで杉本博司の展示。3シリーズで構成されていて、順路は3階の「今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない」、2階の「廃墟劇場」、「仏の海」。

展示を見終わった後で、「今日 世界は死んだ…」は2014年にパリのパレ・ド・トーキョーで展示されていたことを知りました。また、当時の雑誌(美術手帖 2014年7月号)で特集されていることを知り、図書館で借りてみました。覚えておきたい内容だったので、東京の展示と合わせて書いておきます。

今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない

33通りの最悪の未来のストーリーに自身の写真作品と蒐集品を組み合わせたインスタレーションの「今日 世界は死んだ…」。人類が生まれる前に見立てた「海景」に始まり、人類がいなくなった後に見立てた「海景」に終わるシリーズ。写真美術館の展示では、作品テーマもそうだし、写真だけじゃないこともあり、見ているこちらの気持ちが掻き立てられました。が、各ストーリーが所狭しと並んでいるように感じで、廃墟感よりもテーマパーク感が強かったように思えます。来場者の多さがそう感じてしまう一因なのでしょうか?しかし、続けて見た2階の「廃墟劇場」「仏の海」は照明が物凄く暗く、展示室の使い方も大胆で、人の多さも気になりませんでした。

一方、雑誌(美術手帖2014年7月号)の掲載写真を通して見る限りですが、パリの展示は、建物が古く(1937年竣工)、壁もところどころ落ちており、展示室の天井が高く、広くて、まさに廃墟な雰囲気。あーここのためのインスタレーションなんだなと思いました。自然光を採り入れられるようガラス天井になっているのですが、展示中は照明は使わず、夜の展覧の際は懐中電灯を来場者に貸していたそうです。なお、雑誌には展示のステートメント、作家による展示会場説明や、註釈もあり、東京展を見た人にご一読をお勧めします。

また、パリの展示ではフランスのモノでまとめたそうですが、今回の展示は日本のモノも含めたとのこと。それがどのような経緯を経たものかはわからないにしても『実物』が持つ説得力は大きいと感じました。例えば、栗林中将司令室にあった硫黄島地図やポツダム宣言受諾を伝えた電文など、それがかつてあった状況を想像せずにはいられませんでした。

廃墟劇場

古い映画館で映画を一本上映している間長時間露光撮影した「劇場」シリーズ。そのような豪華な劇場もあちこちで廃墟化しているとのこと。電気も通っていない廃墟劇場に自ら発電機やプロジェクターを持ち込んで、災害や天変地異を扱ったディザスタームービーを上映して、その間長時間露光で撮影した新シリーズ。写真からは廃墟化の様子が仔細にわかり、朽ち果てていく様子が捉えられています。

一枚の写真には、例えば二時間の映画であれば172,800コマの映像が写るものの、積み重なって光に還元され、まるで白いスクリーンを撮影したかのように見えます。今回驚いたのは、そのスクリーンがまるで自発光しているかのように見えたことです。展示室の照明が微妙にちらつきがあったと思うのですが(真偽は不明)、そのような照明があたると、スクリーン部分と周囲の境目というか、映画上映で周囲に光が漏れて少し明るくなっている部分がチラチラ動いているように見え、まるで、フィルムが終わっても映写機だけが回っているような感じがしました。そのせいでしょうか、劇場というモノを撮影しているにも関わらず、生き物の写真を見ているかのような気にさえなりました。

仏の海

三十三間堂の千体仏を撮影した作品です。東京都写真美術館による杉本博司インタビューによると、『後白河法皇の時代に、末法思想の影響で、生きている間に極楽浄土をこの眼で見てみたいと、三十三間堂が構想された』そうで、『文明の終わりや廃墟になった劇場と合わせて<仏の海>を展示して、仏様の救いで展覧会が終わるという形式を考え』たとのこと。

ネタバレになりますが、2階の展示状況は、四角い展示室の中に対角線上に稼動壁を配置し、三角形の展示室を2つ作ったものになります。最初の三角形のすべての壁面に廃墟劇場が展示され、すべての作品の真ん中に生きているようなスクリーンが見えていました。

一方、仏の海は、展示室内側の稼働壁のみに写真を掲げた大胆な展示でした。美術館の壁はたとえて言えばお寺の壁で、来場者は千体仏に集中できる、ということかもしれません。なお、千体仏の前方に「光学硝子五輪塔」が設置されていました。

五輪塔については知らなかったのですが、2012年の展示の情報だと、以下だそうです。

五輪塔とは方形で地を、球形で水を、三角形で火を、半円形で風を、宝珠形で空を表す造形デザインが特徴の墓石の一種。舎利(遺骨)容器として使われた形を墓石に置き換えて、平安期に日本で独自に発展、鎌倉期にかけて人気を集めたという。

杉本さんは五輪塔を光学ガラスで成形し、遺骨の代わりに自作の「海景」フィルムを内部に収納した。

なお、同じ五輪塔かどうかはわかりませんが、「今日 世界は死んだ…」パリ展示で最後のストーリーの展示のところで使われていたようです。パリ展示にしても、東京展示にしても展示の最後に設置するのはどのような意図なのか?以下の、杉本氏のテキストの最後にヒントがある気がします。
http://www.sugimotohiroshi.com/FiveElementsJP.html

■展覧会概要
杉本博司 ロスト・ヒューマン
会期:2016年9月3日〜11月13日
開館時間:(展覧会サイト参照)
会場:東京都写真美術館
入場料:一般1000円
展覧会サイト:
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-2565.html

[補足情報]
※パレ・ド・トーキョーの展覧会ページ(2014年パリでの展示)
http://www.palaisdetokyo.com/en/event/aujourdhui-le-monde-est-mort-lost-human-genetic-archive

※bitechoサイトの記事(仏の海と対峙する五輪塔の様子が見られます)
http://bitecho.me/2016/09/02_1127.html