先日書いたTONTOについての記事ではギルのCD「1980」の個別の曲について調べますと予告ましたが、その前に、TONTOを使ったミュージシャン達をひとまず振り返ってみようと思います。というのも、私が買ったCDでTONTOで録音したものが割とあって(スティービー、アイズリーズ、クインシー、ギル)、これは聞いてきた音楽を振り返るようなものだなあと思ったのですよ。結論としては、TONTOはスティービーで花咲き、ブライアン・ジャクソン(ギルのコラボレーター)で再度花咲いた、それに続くものなし、かな。続くものなしなのは、モノフォニックじゃなくてポリフォニック(複数音同時に発音できる)シンセサイザーがその後登場して、今は普通にシンセサウンドを享受できるようになってるので。
TONTOもムーグとかアープのモジュールを組み合わせたものらしいですが、それ以前はスイッチド・オン・バッハ、ジョージ・ハリスンの電子音楽の世界、冨田勲ぐらいしかいませんでした(知らんけど)。で、TONTO(The Original New Timbral Orchestra:オリジナルな新しい音色のオーケストラと名付けたマルコム・セシルとロバート・マーゴーレフ)は、そんな時代、1971年にZERO TIMEというアルバムを出したんですよ(TONTOで全部作ってる)。今日初めて聞いてみたのですが、素直にかっこいいんですよ!部分部分で思ったのはMUTEKで聞く人みたいな感じでした。
このアルバムを聞いて彼らの元に行ったのがスティービー。結果、4枚のアルバム(「心の歌/Music of My Mind」、「トーキング・ブック/Talking Book」、「インナーヴィジョンズ/Innervisions」、「ファースト・フィナーレ/Fulfillingness’ First Finale」)をTONTOとともに作り、彼の一時代を築き上げたのでした。それ以降、TONTOを使うのがある種の流行りになったのでしょうか。リトル・フィート、デイブ・メイソン、ランディ・ニューマン、ドゥービー・ブラザーズ、ジェイムズ・テイラー、ジョーン・バエズなども利用していますが使っているだけ感は否めないですね。ウェザー・リポートも「Tale Spinnin’」で使ってるとのことで聞いてみましたが、効果音的な扱いにとどまっている感じに聞こえました。
上述の通り、スティービーが4枚のアルバムで使っていますが、今聞いても使いこなしていまして、さすがです(ムーグのベースシンセの使い方が上手いのかもしれない)。改めていいなあと思ったのは、TONTO使用の最初のMusic of My Mind(1972)収録のSuperwoman。3分過ぎからの曲調が変わる合図として使っている感じでしてそれが素敵で、(これまでは、この部分が別な曲だと思ってたのですが、どうも、第二部的な感じでして)こういう演出に合いますよね。
スティービーに関して言えば、以降のTalking Book(1972)、Innervisions(1973)、Fulfillingness’ First Finale(1974)では、ムーグのベースシンセを多用しており、それだけで独特な感じを醸し出してます。例えば、Innervisionsに入っている「Golden Lady」はサビの伴奏でTONTOが使用されており、以降ふわふわ漂うように、時に対位的に使われて印象的です。
アイスリーズはアルバム3+3(1973)で使われているとあるのですが、そんな気がせず、唯一感じられるのが最後の曲「The Highways of my life」のピヨピヨ聞こえるシンセサウンドです。ただ、スティービーのInnnervisionsの直後に3+3のレコーディングを行ったらしいです。その1年後の「Live It Up」(1974)がスティービーのサウンドを彷彿とさせる感じでした。
クインシー・ジョーンズの「Body Heat」(1974)はシンセ多用されてまして、TONTOだけとは限らないみたいです(シンセ担当で多くのミュージシャンがクレジットされているので)。これも以前から聞いていたのですが、改めて聞いてみると、TONTO風なシンセサウンドがちりばめられてました(歌の終わりのあたりとか)。
で、これは!と思ったのが、ビリー・プレストン(アルバムIt’s My Preasure)。TONTO利用では「Found The Love」や「Fancy Lady」になりますが、「Do It While You Can」がシュギー・オーティスのギターやスティービーのハーモニカのアドリブ合戦がありよかったですね(曲のタイトルは曲の内容を反映してるのでしょうか)。以下は「Found The Love」ですが。
70年代後半は、ギル・スコット・ヘロン&ブライアン・ジャクソンのバンドでTONTOが使われてますね。アルバム的には、Bridges(1977)、Secrets(1978)、1980(1980)と使われてます。アルバムのライナーに明記されてました(2000年代に再発されたCD)。聞く限りですが、70年代最初のスティービーの試行錯誤を彷彿とするというか、ブライアンもムーグのベースシンセを多用しており(アルバムのほとんどで使っている)、それが彷彿とさせる一因でした。また、シンセっぽい音色も、「Racetrack in France」(Bridges)、「We Almost Lost Detroit」(Bridges)、「Angel Dust」(Secrets)などで顕著でして、かなりTONTOを使いこなしている感じがしました(以下に三曲リンクしておきます)。
スティービーがTONTOを使ったのが70年代前半、そして、ギル&ブライアンが70年代後半に使いたおした、そう考えると60年代の後半(かどうかはわからないが、少なくともアルバムが出たのはその頃という意味で)に電子音楽が誕生してから、70年代のディケイドでTONTOが多用されて、その後はさらなる技術革新でシンセサイザーがもっと身近なものになったのですかね。この辺りももっと丁寧に調べると面白いとは思うのですが、私はギル&ブライアンの1980のあたりについて注目していく予定です。
なお、以下のAllmusicのマルコム・セシルのクレジットを参考にしました。ギルのBridgesなどAllmusicに掲載していないものについては私物のCD記載事項を優先しました。なお、1957年のマイルズ・デイビスのアルバムでAudio Restorationとして書かれていたり、ギルの1976年以前のアルバムでRemasteringと書かれていますが、これはアルバム発表時ではなく、CD発売の際にだと思われます。
https://www.allmusic.com/artist/malcolm-cecil-mn0000670939/credits