Things Fall Apartで思い浮かぶのは、The Rootsのアルバムタイトル。つい先日、このタイトルの元になった同名の小説があることを、その小説もタイトルをとある詩から引用したことを知りました。「Things Fall Apart」という一つのセンテンスを巡る『謎解き』が面白かったので以下にまとめます。
きっかけはカサンドラ・ウィルソンFacebookページのこの投稿。
そのときの認識は、ルーツの「Things Fall Apart」が60周年ってどういうこと?でしたが、記事サブタイトルには『チヌア・アチェベの傑作小説』とあります。このときは青天の霹靂というか、もう一つのThings Fall Apartがあったのか!と驚きました。今年で60年だから、発表されたのは1958年、アチェベの母国ナイジェリア独立の2年前です。
で、Things Fall Apartで検索したら(それまで検索したことがなかった)、検索結果にはアチェベの小説ばかりが。ルーツのアルバムが表示されると思っていた私、ちょっと情けない。ちなみにWikipediaベストセラー本のリストをみると、同じくらい売れたのがジョージ・オーウェルの「動物農場」。約2000万冊売れたらしいです(上にシェアしたMail and Guardianの記事だと1000万冊となってますが)。
日本語タイトルは「崩れゆく絆」。アマゾンの内容紹介は以下。
古くからの呪術や習慣が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。全世界で1000万部のベストセラー、アフリカ文学の父アチェベの記念碑的傑作待望の新訳!
出典:
https://www.amazon.co.jp/dp/B00ZWIDYSA/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
また、ルーツのアルバムタイトルThings Fall Apartは、アチェベの同名小説からとったらしいです。
ならば読むしかない。早速図書館で借りて読みました。ページをめくると、イェイツの「再臨」の抜粋が。
広がりゆく弧を描き、まわりまわる
鷹には鷹匠の声がとどかない
すべてが崩れてゆき、中心は保てない
まったき無秩序が世界に放たれる
Things fall apart(すべてが崩れてゆき)の大元がここに!
小説の解説によると、
イェイツの詩で表現されているのは、シュペングラーの思想などにも通底する悲観を伴う円環的歴史観である。第一次大戦、ロシア革命、イースター蜂起などの同時代の状況への反応として、それらの暴力の果てにヨーロッパのキリスト教文明が終焉を迎え、未知なる新たな歴史のサイクルに入っていく、というイェイツ独自の黙示的ヴィジョンが提示されている。対してアチェベはこうした歴史循環のヴィジョンを反転させるように、19世紀後半にキリスト教と植民地主義勢力の到来がアフリカにもたらした暴力的な転覆と破壊を主題とし、1950年代後半における新しい時代の到来ー植民地支配の終焉とアフリカ独立ーを見据えている。
ルーツのアルバムは1999年発表なのですが、アチェベの小説のタイトルの元となったイェイツの詩も見据えた上で、同じタイトルにしたのかなあと思ってしまいました(私だけ?)。
ところで小説ですが、面白いです。一言で言えば、名声と財産を築いた主人公の悲劇です。父親が弱い人間で、そうなりたくないと思うあまりに、弱さをさらけ出せず、突拍子もないことをしてしまう主人公。その内面描写が重苦しく感じる一方で、種まきや収穫、農閑期、婚礼、村と村との戦争、妻たち子どもたちなど共同体の描写が、まるで映像をみているかのように活写されています。それが印象に残りました。また、小説終盤の、古くからの慣習と外から持ち込まれた概念、共同体と統治のような軸は、自分の状況で考えてみたいと思いました。日本にいる私も、古来の伝統文化とアメリカなどからの輸入文化の両方に帰属しているわけで。
続編の「もう安らぎはえられない(No Longer at Ease)」、その次の「神の矢(Arrow of God)」も読たいところですが、日本語訳の本は手に入らなそうで残念。