1974年ザイール(現、コンゴ民主共和国)の首都キンシャサで行なわれた3日間に及ぶ音楽フェスティバル、「ザイール74」のドキュメンタリーには、その出だしで完全にノックアウトされた。ジェームス・ブラウンの冒頭の「Fellows, movin’. Doin’ it.」という、観客への呼びかけの発声パワーに不意をつかれ、思わず涙がこぼれてしまった。凄いとしか言いようがなく、言葉を失ってしまった。続く曲は、映画のタイトルにもなっている「ソウル・パワー」。
とにかく、演奏シーンが素晴らしい。カメラのミュージシャンへの迫り方も尋常ではない。これでもかとミュージシャンに肉迫するカメラは4台。時にはミュージシャンの顔全体がスクリーンに収まらない程どアップになる。映し出されるのは流れる汗。聞こえるのは、仮設ステージの板の上で踏みならされるステップの音。JBは勿論、アメリカ側、アフリカ側のミュージシャン達全ての演奏に圧倒された。
映画はミュージック・パフォーマンスの合間に、フェスティバル開始前のアメリカのプロモーター事務所や記者会見、フェスティバルの仮設ステージ設営などを途中に挟んで進行する。フェスティバルの日程に関する、主催者側とミュージシャン側との認識齟齬、ステージの準備の進捗が遅れているなど、ハラハラする要素も織り交ぜながら、アメリカから飛行機に乗ったミュージシャン達がザイールに到着する。この機内の描写が、まるでフェスティバルのオープニング・アクトにも思えた。ジャンルを超え、パーカッションやアコースティック楽器でジャム・セッションするミュージシャン達。主催者の一人がJBにザイールを訪問する感想を尋ねる。「ついに戻ることができる」と言っていたJBだが、何度も感想を確かめられた後に語る言葉が印象的で、彼の興奮が伝わってきた。
参加したミュージシャン達はJBと同様な高揚感を抱いていたようで、終演後に感極まっていた人も。ザイールは、その昔、フランスとベルギーに統治されており、フランス語が公用語。ルーツが同じなのに、英語を話すミュージシャン達とは言葉が通じない。昼間に露店に遊びにきたミュージシャン達、言葉が伝わらなくとも、売られていたパーカッションを叩くと、現地の人も得意の楽器を奏で、ひとつのフィーリングを共有する。自分たちの言葉を奪われてもいつか友達になれると。
ちなみに、広く知られている通り、フェスティバルの後には、モハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの試合が予定されていた。が、フォアマンの怪我で試合は延期。試合目当てのアメリカなどからの観光客が来ず、フェスティバルは大赤字になり、撮影したフィルムも映画化の目処が立たず、お蔵入り。映画化されたのは昨年。映画にはザイールで待ちぼうけをくらった(?)アリが頻繁に登場する。彼は雄弁で、やはり役者が違うという印象だった。彼の発言全てが名言だった。
映画の終わりはJBが締めくくる。ステージを降り、楽屋に向かうJBをカメラが追う。楽屋ミラーの前に座り、汗を拭うJBの背中が写っている。しばらくした後に、カメラの方に振り返ったJBは、映画を観た観客に向かって語りかける。今日まで映画化されなかったことで、彼の思いがアフリカン・アメリカンには当時は伝えることが出来なかったんだなと、残念に思ったのと同時に、36年の時を経て聞くアメリカ人は、おそらくタイム・カプセルを開けたような気になるのではないかと思った。
2018/11/14追記
youtubeにソウルパワー(字幕なし)がありました。貼っておきます。