2月7日から始まった恵比寿映像祭、開催日にこの上映とトークがあり行ってきました。「二重のまち」とは、もともと2015年に作られた瀬尾夏美作の物語。東日本大震災から20年後の陸前高田が舞台。確か、2017年のヨコハマトリエンナーレでは横浜美術館の図書室?にテキストと朗読された音源が置いてあり、聞きながら読めるようになっていた気がします。ヨコトリのサイトを見ると、陸前高田と神戸の人たちが朗読しているようです。
映像作品について
映像の内容はこんな感じ。4人の若者が旅人として、被災後に新しい町を築きつつある陸前高田を訪れる。土地の人たちの話を聞いたり、一緒にご飯を食べたりする。自分と陸前高田、自分と震災について語る。聞いた話を語る。何を感じたかを語る。何ができなかったかを語る。「二重のまち」の物語を土地の人たちの前で朗読する。
朗読がこの映像作品におけるゴールだとすると、旅人たちのそこに至るまでの気づきや葛藤が映し出される過程は、シニアな視点で言えば旅人たちの成長物語のようにも見えるし、迷える現代人の視点で言えばもがきながらも自分なりに何かを獲得していくことはできるんだと背中を押された気もしました。
旅人がカメラに向かって聞いた話を独白するシーンがあるのですが、そこがよかったです。つまり本など文章にまとめられる以前の生まれたての言葉、というところが。考えがまとまらなかったり、言葉につまったり、人称がはっきりしなくなったりして、本人があとから見返したら恥ずかしいと思うと思うのですよ。だけど、そんな風に悩みながら、迷いながらも、伝えようとしている、その姿とともに伝えられた内容がセットになって私の記憶に残るのだなと。ここでも誰かの体験が私の体験になり得ることを確認できたように思います。
旅人について(ネタバレあり)
トークでは現在から被災当時までを振り返ってのお話もありました。曰く、被災地において、新しいまちができつつあって生活を回すようになってくると、被災当時のことをあまり語らなくなる。それに対し、距離のある人が持つ後ろめたさ(何も関われていなくて的な)は当時とあまり変わっていないのではないか、とのこと。
また、この二つが同じ時期に起こっていたのだと考えた時に、継承の始まりの場ではないかと思ったとのこと。
なお、4人の旅人は公募で選ばれていて、被災当時は高校生以下だった人、つまり後ろめたさすら持てないほど年齢的に無力感を負わされてきた立場なわけです。そのような人だから継承の始まりの場に自然体で臨めるのだろうかなど思ってしまいました。
とはいえ、そういう旅人でも土地の人の話を聞くにつれ、ある種の『つかえ』のようなものが彼らの中に生じてくるように見えました。それは映像の中で4人が語り合う場面で、旅人の一人が、聞いたことをとりこぼさずにちゃんと伝えなきゃいけないと言うところでした。ここは、当時大人だった私たちが感じる後ろめたさ(=何も関われてない)的なものとも重なりました。ちなみに、このシーンでは、別な旅人が、そうかもしれないけど自分のことも正確に語れないのに他の人についてちゃんと伝えることなんてできるのだろうか?と続けるのですが、ここは私の好きなシーンです。
物語「二重のまち」について
映像での朗読を聞いて3年前のヨコトリのことを思い出しました。このときは、未来のお話であることは気づいたものの、瀬尾さん自身が見聞きしたことから想像して云々など今ひとつわかりませんでした。もしかしたら何らかの掲示はあったのかもしれませんが。で、今ひとつ掴みきれないまま部屋をあとにしました。
映像を見たら、3年前はもったいないことをしたなあと思いました。と同時に知る順番も大事だなと。個人的には映像作品を見てから物語を読んでみたいと思ったのです。また、そのような受け手側の都合とは異なるとは思いますが、小森+瀬尾ユニットが陸前高田で見つけた(見つけている、見つけようとしている)他者の言葉、それの継承の仕方の一つとして物語があり、映像作品があり、ということなのかと改めて気づいたのでした(ちなみに、物語「二重のまち」は美術館のミュージアムショップにあったので買いました。なんか嬉しかったです)。
●恵比寿映像祭の作品ページ
https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2020-04-03
※こちらの上映は、2/23にもあります(あるけど、前売り分で完売になった模様。凄いな)。
写真美術館地下一階でも「二重のまち/交代地のうたを編む」の展示あります。
https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2020-01-20
小森はるか「空に聞く」上映も、2/22にあります。
https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2020-04-04
「空に聞く」は2019年のあいトリで見ました。当時の感想は以下。
あいちトリエンナーレ2019/小森はるか/愛知芸術文化センター(A87)