高松次郎「不在への問い」を読んで(1/3)ー反芸術主義と芸術の前提を無くすことー

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今年初めに東京国立近代美術館の高松次郎の展覧会に行きました。影を描くところが写真的に思え、またアルファベットを26進法ととらえて無限に文字の羅列を作るところがエンジニア風であり、写真好きなシステムエンジニアとしては、高松氏をもっと知りたくなりました。この「不在への問い」は高松氏の批評やエッセイをまとめた書籍で、氏がどのようなことを考えていたのかを知るにはちょうどよいのではないかと思い、読み進めたものの、私には難解で理解できない部分もありました。が、ひとまず読み終えた今、気づかされた点について書き留めておきたいと思います。

覚えておきたい点は、おおまかに以下のとおり3点あります。
1. 反芸術主義と芸術の前提を無くすこと
2. 20世紀初頭以降の絵画の変革
3. 無と全体(トータリティー)について

今回は、上記1について要旨と私感を書き留めます。

■要旨

高松次郎は自らを、以下のように振り返って語っています(以下の『現在』は執筆当時の1987年)。

60年代は反芸術主義者だった。現在はその方向と180度逆の方向を向いて仕事をしているが、進むべき方向は逆であっても正反対であるだけにそれが一本の直線をなしている。

高松氏は1960年前後、アカデミック、前衛含め、既存の美術のほとんどに疑いを抱いたと書いています。疑いが向けられたのは、表現における美意識や感覚、感情、情念、知的なものまで含めて、そういった内的なものの表出に対してです(P105より)。
歴史を振り返ってみると、ルネサンス以来は遠近法や明暗描写が確立され、そのことにより、物語性や絵画の中に説明的要素を見出すことができるようになりました(P60より)。

そのように、何らかの対象を絵具に置き換えた作品は、イメージとなって見た人の心の中に吸収され、つまり風景を前にした画家によって塗られた青色の絵具は、見る者の眼の中で青色の絵具ではなく、空そのものとなり、絵具はイメージのために機能を果たし、イメージは精神のために機能を果たすと考えられてきました。作品は精神的な何かに転化されなければならず、単なる物であってはならず、それが芸術作品であると思われてきた、と氏は指摘しています(P91より)。

それに加えて、60年代の日本には芸術という制度、権威が明らかにあり、そこにははっきりとした敵があり、戦いがあり、その制度を破壊することで新しい未来が開けると信じていた、と言います(P278より)。
同時期、高松氏は赤瀬川原平、中西夏之とともに、ハイレッドセンターという前衛芸術集団としても活動していましたが、ここで習得したことはきわめて大きい、と言います。制作に際しては、まず『白紙還元』を行いました。白紙還元とは、常識化あるいは固定化してしまっていることは白紙に戻してしまわなければ何事も始めない、という考え方で、その前提になっているものを疑い、ゆさぶり、そして余分なものは全て取り除くものです。制作の前提に対する暗黙の了解といった部分はたいていはリアリティを弱めてしまうものになるから、だから白紙還元が必要だと指摘しています(P122より)。

■私感

『白紙還元』には、自分が白紙還元していなかったことを気づかされました。判りやすい例では展示を行うときのこと。何を展示するのかアイディアを積み上げていく以前に、サイズ感はこのくらいでとか、内容以前のことを先に決めてしまっていたな、と思いました。
また、これまでに『よい』と見聞きしたもの(例えば、構図など)を私は疑いもなしに取り入れていてきましたが、最終的にそうなったとしても、なぜよいのかも考えないのは主体性がないのではないかと思いました。

『芸術という制度や権威』については、まとまらないものの色々考えることがありました。このブログの最初の投稿で、今年はコンテストに応募すると書きましたが、そのようなコンテストも既存の『制度や権威』であり、なぜ応募したいのか自問自答してしまいました。おそらく自分の活動がうまくいっている、と思っていればコンテストなど考えなかったと思います。なんらかの迷いがあるからこそ、これまでやらなかったことを付け加えたいのだと思います。

自分の活動は芸術作品ではなく、雑誌のようなプロダクトが主なので、高松氏の言葉に当てはめて反省しても仕方がないのですが、以上のようなことを考えてしまいました。ただ、美術はもとより、写真家に限っても著名と言われる人についてすらあまり知らなくて、歴史を知らなさすぎることに改めて気づきました。例えば、子どもの頃にロックを聴き始めてストーンズやビートルズなど時代をさかのぼって聴きたいと思ったように音楽への愛情はいまだに持ち続けていると自分では思うのですが、写真への愛情はそれほどには感じられないなあと。